こんにちは。
精神医学と性格心理学に詳しい心理カウンセラー、竹内成彦です。
今年の春、心理臨床の合間に童話を書きました。
大賞を獲ることを夢見ていたのですが、入賞すらしませんでした。(涙)
宜しければ、どうぞお読みください。
しょうちゃんとふみきり
ぼくの名前は、ふみきりけいほうき。いつも、駅からちょっとだけはなれたとこ
ろに立っている。
みんなは、ぼくのことを、ふみきりとよぶ。なかには、したしみをこめて、「ふ
みきりくん」と呼んでくれる人もいるが、やっぱりみんなは、ぼくのことを「ふみ
きり」と呼びすてにする。
ぼくは町のきらわれものだ。電車がとおるとき、いつもぼくは、しゃだんきをお
ろして、人や車を通せんぼするからだ。
きらわれるのはいやだけど、仕方がない。車がじこをおこさないよう、人がケガ
をしないよう、通せんぼをするのがぼくのしごとなのだから。
ぼくは、朝早くからしごとする。夜おそくまでしごとする。雨の日も風の日も、
夏のあつい日も冬のさむい日もしごとする。
「もうじき電車が来るな」って思ったら、赤い目だまをチカチカさせて、「カン
カンカン」と音を立てる。そしてしゃだんきをおろして、人や車を通せんぼする。
それがぼくのしごとだ。
中にはぼくをにらみつける人がいる。「早くしゃだんきをあげろ」と言ってくる
人もいる。けれど、しゃだんきをあげるわけにはいかない。そんなことをすれば、
じこがおきてしまうかもしれないからだ。
ぼくはだれからもかんしゃされることはない。「ありがとう」と言われることも
ない。それは、とてもかなしいことだけど、仕方がない。目だまを光らせ、音をな
らし、しゃだんきをおろすのが、ぼくのしごとなのだから。
けれど、そんなぼくにも友だちができた。しょういち君という、この春ほいくえ
んにあがる男の子だ。しょういちくんは、みんなから「しょうちゃん」て呼ばれて
いる。
しょうちゃんは、おかあさんといっしょに、まいにちぼくに会いに来てくれる。
しょうちゃんは、ぼくのことを「ふみきり」とも「ふみきりくん」とも呼ばない。
しょうちゃんは、ぼくのことを「カンカンカン」と呼ぶ。ぼくが電車が来るたびに、
「カンカンカン」と音をならすからだ。
しょうちゃんは、ぼくがしゃだんきをおろしてもおこったりしない。しょうちゃ
んは、ぼくがとおせんぼをしてもおこったりしない。しょうちゃんは、いつもぼく
のみかただ。
しょうちゃんは、ぼくが赤い目だまをチカチカさせて「カンカンカン」て言うと、
いっしょになって「カンカンカン」て言う。
ぼくとしょうちゃんが「カンカンカン」って言っていると、しょうちゃんのお母
さんがやさしい声で言う。「しょうちゃん、もうすぐ電車が来るよ」と。
しょうちゃんは、電車がだいすきだ。しょうちゃんは、電車が来ると、こんどは、
「ガタンゴトン、ガタンゴトン」て言う。ぼくがカンカンカン、電車がガタンコト
ン、しょうちゃんがガタンゴトン。
電車がとおりすぎると、しょうちゃんのお母さんは言う。「しょうちゃん。電車
行っちゃったね」するとしょうちゃんは、にっこりわらってうなずく。
ぼくは、電車がとおくへいったら、目をチカチカさせるのをやめる。「カンカン
カン」ていうのをやめる。そして、よっこらしょとしゃだんきをあげる。
しゃだんきをあげると、たくさんの人がふみきりをわたる。ぼくのことを忘れた
かのように、ふみきりをわたる。
けれど、しょうちゃんがふみきりをわたることはない。しょうちゃんは、ぼくを
見にきただけだから。しょうちゃんは、電車を見にきただけだから。
しょうちゃんは、ぼくのしごとをいつも見てくれる。ニコニコしながら見てくれ
る。そんなとき、ぼくは「このしごとをしていて、本当によかったな」って思う。
しょうちゃんは、ぼくのしごとを見おえると、いま来た道を、ゆっくり歩いて帰
る。そして、いつもふりかえる。ふりかえって、ぼくに手をふる。「バイバイ」っ
て言って手をふる。ぼくは、とても幸せなきもちになる。
「しょうちゃん、また見に来てね。ぼくは、あしたもあさってもここにいるから
ね」
夕方になり、夜になり、さいごの電車がとおりすぎたら、ぼくの1日はおわりだ。
しょうちゃんから元気をもらったぼくは、「明日もがんばろう」って思う。
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